三教指帰と空海

偽撰の文章論

空海の名著とされた『三教指帰』は空海のものではなかった!通説をくつがえし、空海像を描き直す。文章論で迫る画期的な空海研究。

著者 河内 昭圓
出版社 法藏館
ジャンル 日本仏教 > 真言宗系(密教含む)
出版年月日 2017/05/18
ISBN 9784831877130
判型・ページ数 4-6・242ページ
定価 本体2,300円+税
在庫 在庫あり
『三教指帰』は空海の名著という通説をくつがえし、若き日の空海像を描き直す。
「文章論」で迫る画期的な空海研究。
漢文とは何かをあらためて知るためにも最適な一冊。

「三教指帰偽撰説」を提唱した著者が、その内容を丁寧に論述した待望の書き下ろし。


空海が著わしたとされる『三教指帰』は、日本漢文史上の傑作、日本最古の戯曲などと称され、日本文学史上に重要な価値をもってきた思想書である。
その「序」の部分には空海自身の伝記があることから、空海の青年期を研究するための基礎資料として不動の価値を与えられてきた。

そしてそれは、空海が24歳で著わした『聾瞽指帰』を、後日みずから改稿したものとされ、内容・文体など、より完璧を期した作品と考えられてきた。

しかし著者は、伝統的に語られてきた『三教指帰』は空海が改稿したものとする通説に疑問を投げかけ、それは空海ではなく他の何者かによって改変されたもの(偽撰)だったと主張する。

『聾瞽指帰』は空海の真蹟として国宝に指定されている。他方、『三教指帰』の最古の写本は空海没後300年のもの。より完璧なはずの『三教指帰』は空海没後より300年間、書写されることなく、読まれることもなかったのか?
素朴な疑問は『三教指帰』偽撰の予感となり、『聾瞽指帰』と『三教指帰』との詳細綿密な文章比較の結果、その予感は確信となる。

―――
わたくしの偽撰説は単純な文章論である。特に『聾瞽指帰』と『三教指帰』の序文にみる文体の相違、文体が変われば用語も変わることがわたくしのなかで偽撰を決定づけた。
両指帰の大きな相違点は本文はほぼそのままにして、序文だけを違った文体で書き改めるところにあるが、この不細工を無類の表現者である空海がするはずはなく、後日再治するというならば、空海はたちどころに全篇を書き直したであろうと思う。
―――

『三教指帰』が偽撰ならば、従来の空海像は再考を要するであろう。
本書後半では従来なぞとされてきた空海伝をめぐる諸問題が明らかにされていく。

“支那学”の伝統のなかで著名な碩学に学び漢文を「読む」ことを絶えず研鑚してきた著者にしてはじめてなし得る瞠目すべき論証は、「信仰」による漢文の読みを排し、正しく漢文を読むことの意味をあらためて示す。


「空海の風景」
司馬遼太郎は『聾瞽指帰』とは書いていない
『遊仙窟』と空海
『三教指帰』から『聾瞽指帰』へ

一、『三教指帰注集』の出現――偽撰の予感

山田コレクション
『三教指帰注集』への注目
『三教指帰』の古い注釈書
「成安注」
偽撰の予感

二、『聾瞽指帰』について

国宝『聾瞽指帰』の書誌
弘法も筆を誤る
『聾瞽指帰』の伝来
本文の結構
賦の形式と四六駢儷文の文体
序文は文学論
執筆の動機
十韻詩の導入部
十韻詩

三、『三教指帰』について

両指帰の相違点
序文は自叙伝
虚空蔵聞持法
出家宣言
執筆の動機
十韻詩
序文との呼応関係

四、『三教指帰』偽撰の明拠

本文の適正な改変
本文の適正を欠く改変
改変のための改変
対句に関わる改変
韻字に関わる改変
助字に関わる改変
多字形の改変
用語に時間差が認められる改変

五、空海伝をめぐる諸問題

『聾瞽指帰』の自注と『三教指帰』
「雲童」「滸倍」の出典と解釈
「摂津の国の古倍」と神戸
「滸倍」は小豆島の小部か
『三教指帰』序文の自伝と「卒伝」
空海の生誕地と就学
空海が目指した方向
『聾瞽指帰』撰述の真の動機
空海の入唐と帰国
「御遺告」と『三教指帰』



偽撰の時期

主要参考文献
図版出典

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