話題の本【書評】(2024年9月~) - 2025.08.18
生と死の物語
古典・名作にみる〈この世〉と〈あの世〉
近代の文学ではもっぱら現世の人生がテーマになった。しかし、人の来し方行く末をみるなら現世だけではすまない。おのずから死生観が問われる。
死後の霊魂や来世が現実にあるのかどうか、それはわからない。しかし、死後の世界の物語は強く人の心をひきつける。近年の漫画やアニメでも、死霊や妖怪などの冥界・異界ものに人気がある。そのなかで、あの世の話は極楽より地獄のほうがおもしろいともいわれるのだが、古典文学では地獄よりも極楽浄土への思いが強い。来世に救いを求めるなら当然である。
また、寺院をみれば、阿弥陀仏をまつる寺が多く、閻魔堂は少ない。平等院鳳凰堂のような華麗な阿弥陀堂もある。美術史の主題になっているのも、圧倒的に阿弥陀仏と極楽浄土である。
本書で取り上げた『万葉集』から近現代の作品にも、そうした思いがこめられている。
飛鳥・奈良時代
『古事記』が語る他界
釈迦の前世と降誕
死後に仙人となった達磨大師
『万葉集』の死者の行方
『万葉集』の仏の歌
[コラム]来世を祈る仏足石歌
平安時代
黄泉の国から冥土の地獄へ
彼岸会の始まりと四天王寺
源信が見た極楽浄土
平安貴族の夢のかなた
藤原実資の日記『小右記』の「望月の歌」
平安の宮廷を語る『枕草子』
極楽往生を願う仏名会
『源氏物語』の生霊と死霊
『紫式部日記』に見る平安貴族の実像
歴史物語『栄花物語』の藤原頼通
『更級日記』の菅原孝標女
釈迦入滅の二月十五日に往生した話
平清盛のふたつの遺言
『梁塵秘抄』の極楽の歌
藤原定家の日記『明月記』の熊野詣
地蔵菩薩の冥土の物語
[コラム]持経者の極楽往生
鎌倉時代
武士たちの十念往生
熊谷直実の物語
『吾妻鏡』の念仏者
曾我兄弟の仇討ち
『宇治拾遺物語』の地獄変
[コラム]弁慶が立ち往生した理由
室町・安土桃山時代
めでたしめでたしの室町物語
説経節『さんせう太夫』の安寿と厨子王
現世と異界の境界で舞う夢幻能
戦国武将の歌と信心
[コラム]禅僧・夢窓疎石の枯山水
江戸時代
徳川家康の厭離穢土・欣求浄土
『徳川実紀』に見る家康の晩年
春を告げる御忌法要
忠臣蔵の正義
『雨月物語』の黄金の精霊
江戸の怪談『諸国百物語』
実録『稲生物怪録』の妖怪
平田篤胤『仙境異聞』の天狗
念仏吉蔵の臨死体験
小林一茶の句文集『おらが春』
お殿様のエッセー集『甲子夜話』
[コラム]暮らしに浸透した江戸仏教
近代=明治以降
森鷗外の「奈良五十首」
島崎藤村の「三人の訪問者」
夏目漱石の「猫」は成仏したのか
石川啄木の彼岸へのまなざし
小泉八雲の『知られぬ日本の面影』など
北原白秋の哀しき故郷
芥川龍之介「蜘蛛の糸」の謎
芥川龍之介「龍」のフェイク騒動
高浜虚子の俳句は極楽の文学だ
武者小路実篤の『釈迦』
宮沢賢治の「水仙月の四日」
泉鏡花『高野聖』の山中他界
後生車が回る太宰治の『津軽』
久生十蘭の「雲の小径」
柳田国男の『雪国の春』
川端康成の「葬式の名人」